脳をえぐる小説集


「泣く?」
遊美は、無表情で聞いた。陸はうなずいた。
「教えてあげるよ。君はいま、悲しんでいるんだ。その熱い感情は、周一郎というひとが亡くなったたことへの悲しみなんだよ。これは、物を壊したり、暴れたりして、癒やされるものではないんだ」
「泣く・・・・・・。本で読んだことはある。目にある涙腺という場所から、体液を流す、人間の体に備わった機能のことだな」遊美の声が暗くなる。「そんな機能、人形である私にはないぞ。泣くなんてことは、私にはできない」


「涙なんか流さなくても、泣くことはできるよ」
陸は、優しくつぶやいた。


「言っている意味がよくわからない」
遊美の声は、とまどっていた。
陸は言った。
「君が、周一郎というひとに、言いたかったことを、思い切り叫ぶといい。作られてから、いままでに、いろいろとあったんだろう?想像してみてごらん。もし、君が周一郎というひとと会話ができたとしたら、まず何を言いたかった?何でもいいよ。思い浮かんだことを、言葉にしてみるといい。そうすれば、、たぶんその熱い感情は、少し落ち着くと思うよ」


しばらくの沈黙があった。


遊美は、陸に抱かれたまま、微動だにせずに、無言で立っていた。


周一郎との思い出を、いろいろと反芻しているようだった。


陸は静かに待った。


やがて、顔を上に向けると、遊美は、天に向かって、話しかけるようにして、ゆっくりと、言った。





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