脳をえぐる小説集
遊美は、たどたどしく声をあげた。
「作ってくれてありがとう。きれいな服を着せてくれてありがとう。いろんなことを、教えてくれてありがとう。嘘をついてごめんなさい。わたしは、あなたの、本当の娘ではない。でも、あなたは、わたしのことを、本当の娘として大事にしてくれた。心苦しかった。でも、うれしかった。すごくうれしかった」
そこでいったん言葉を切り、何かを考えるかのように少し黙ったあと、言葉を続けた。
「あの絵の具から、守れなくてごめんなさい。本当にごめんなさい。もっと・・・・・・お父、さんと、いろんなことをしてみたかった。本に載っていた、広い海という場所へ、いっしょに行ってみたかった。美術館に展示されているという、お父さんの作品、わたしの兄弟にあたるものを、いっしょに見に行ってみたかった。守れなくてごめんなさい。本当にごめんなさい」
遊美の肩に力が入るのを、陸は感じた。
「お父さん、ありがとう。ごめんなさい。でも、本当に、ありがとう・・・・・・・・・・・・・・・愛してる」
遊美の声は、泣いていた。