脳をえぐる小説集


遊美はしばらくの間、感謝の言葉と、謝罪の言葉を、何度も何度もくりかえした。涙を流さずに、泣きながら、何度もくりかえした。


やがて、遊美は静かになり、下を向いてだまりこんだ。


「少しは落ち着いたかい?」
陸はやさしく聞いた。
遊美は無言でうなずいた。
陸は、ゆっくりとはなれようとした。すると、その腕を、遊美が急につかんだ。陸はつんのめった。
強い力だった。つかまれた箇所に痛みを感じながらも、陸は表情を変えずにゆっくりと聞いた。
「どうしたんだい?」
遊美は、まっすぐに陸を見た。
「あなたにお願いがある」
「お願い?」


遊美は言った。
「わたしを、あなたのものにしてほしい」


< 170 / 177 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop