脳をえぐる小説集
「わたしに何か用?」
ぶっきらぼうに聞くと、沢野は、ええと、とつぶやいて、そのまま黙りこんだ。
そして、少し間を置いてから、口を開いた。
「月田さんって、休み時間とか昼休み、いつも校舎裏に行くよね。あそこで何をしているの?」
羅利子は目を丸くした。
「なんで私が校舎裏に行くことを知っているの?」
「いや、その」沢野は声を小さくした。「いつも遠くから見ていたんだ。月田さんのことを」
その言葉の意味することを察して、羅利子は息をのんだ。
沢野は真剣な顔にかり、しっかりと言った。
「前から、月田さんのことが好きだった。もし、よかったら、ぼくと付き合ってほしい」
羅利子は、顔を赤くして、雅彦を見た。そのまま互いに呆然と見つめあったあと、雅彦は不安そうに顔を歪めて言った。
「断るよな。当然断るよな。おれがいるんだから」
その必死な口調を聞いて、思わず情けないと思い、そんな自分に驚いた。雅彦に対して、負の感情を抱いたのは、これが初めてだ。
羅利子は沢野に向かって言った。
「私なんかと付き合ったら、あなたまでみんなに避けられるよ」
「そんなことは、全然かまわない」
沢野は即答した。
その強い口調に、羅利子の胸は高鳴った。そんな上手な告白ではないのに、今まで教室の風景の一部だとしか思っていなかった沢野が、なんだかとても輝いて見えた。
「なんでこんな奴と話をするんだよ。さっさと断ってしまえよ」
羅利子の心を読みとったかのように、雅彦はあわてた声をあげた。
それを無視して、羅利子は言った。
「一晩だけ考えさせて。明日、必ず返事をするから」