脳をえぐる小説集
その日の夜も、雅彦は、布団に寝転ぶ羅利子にむかって懇願していた。
「なあ、頼む。お願いだから、あの沢野とかいう奴と別れてくれ。そして、おれの恋人にもどってくれよ。おれにはおまえしかいないんだ」
「うるさいわね」
寝返りをうって、背を向ける。
すると、雅彦は立ち上がって、荒々しく怒鳴った。
「いい加減にしろ。あんたはおれを作ったんだろ。だったら、あんたはおれを幸せにしなきゃいけないはずだ。造物主の責任ってものを考えろ」
羅利子は何も言わなかった。
雅彦はふるえる声でつづけた。
「あんた、おれを作ったときに、あんたを死ぬほど愛するという設定をおれにつけたよな?」
羅利子は記憶を探ってみた。
そういえば、そんなことをしたような気がする。
「おかげでおれは、いま、すげえつらいんだ。あんたに分かるか?本当に死ぬほど愛するということが、どんなに苦しいものなのか?」
雅彦の声は、涙まじりの絶叫となっていた。
「心臓がつぶれそうで、本当に死にそうなんだぞ」
羅利子は、半身を起こして雅彦を見た。いつの間に、こんなにやせたのだろう。あの輝いていた顔が、頬の肉がなくなったせいで、しゃれこうべのように見える。目のまわりがくぼんでおり、涙のあとが、赤く残っている。
わたしを死ぬほど愛したせいで、こうなったのか。
気持ち悪い。