脳をえぐる小説集


おれが五歳だった頃の、ある夏の日のことだ。


その日の夕方、おれは公園で、三人の友達とサッカーボールで遊んでいた。


太陽はほとんど沈んでいて、あたりは薄暗かった。まわりには誰もいなくて、ボールが地面をはねる音が、やけに大きくひびいていたのを覚えている。


友達からパスを受けたとき、ふと頭上に何かの気配を感じて、おれは顔をあげた。


朱色の空に、妙なものが浮かんでいた。


球形の、半透明な、膜のようなものだった。それは表面が腐った飴のようにねっとりとしていて、なんだか見ているだけで気分が悪くなってきた。


友達はみんな、突然上を向いたおれを見て、けげんそうな顔をしていた。


「あれは何だろう?」
おれはつぶやいた。
「あれって?」
友達が聞いた。
「ほら、あの丸いやつ」


膜を指さしてみせると、三人はいっせいに空を見上げた。その中のひとりが、首をかしげながら言った。


「何もないじゃん」
「え?」
おれは目をこすってから、空を凝視した。


膜は、確かにそこにあった。さっきよりも少し降下している。


「あそこに浮かんでるじゃないか」
「何が?」
「見えないの?」
不安になって聞くと、三人は気味が悪いものをみるような目つきになった。おれはくりかえし聞いた。
「本当に、何も見えないの?」
三人は同時にうなずいた。


どういうことだろうかと思ったよ。どうして自分にだけ、あの変なものが見えるのか。






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