脳をえぐる小説集
膜による嫌悪感は、相当なもののようだ。それはまわりの人間のおれに対する態度を見てよくわかった。
両親は、そんな膜に包まれた息子と、四六時中、いっしょに暮らしてきたんだ。
それがどれほど苦しいものなのか、おれには想像がつかない。
両親の姿は、目に見えるほどに衰えていった。
親父は髪が薄くなり、肌が乾燥して、皮膚の所々が小さくむけていた。おふくろはシワが多くなり、目の下に深いくぼみができていた。
・・・・・・もうしわけないと思ったよ。
捨てられてもおかしくないくらいに嫌われていたはずなんだ。それでも両親はちゃんとおれを育ててくれた。そのことは、いまでも、すげえ感謝している。
親父は毎日ことあるごとにおれを殴っていた。
殴る理由はどうでもいいようなことばかりだったけど、おれは黙って耐えていた。そうすることで、親父の辛さが少しでもやわらぐのなら、いくらでも殴られてやろうと思ったんだ。
そんな家庭環境でも、おれはまじめに生きた。典型的ないい子になるよう、努力した。学校での成績をあげて、運動もこなせるようにした。同級生達からは、優等生ぶってるって理由で憎まれたけど、両親が自慢できるような息子にはなったつまりだ。
ほめられなかったけどね。
いま思えば、不良になって非行に走ったほうが、ちゃんとした「嫌う理由」ができて、両親も楽だったかもしれない。