脳をえぐる小説集


彼女の死体を包んでいた膜が、小刻みに震えはじめたんだ。


それと同時に、死体の耳から、白い汁のようなものが、大量にあふれだしてきた。


おれは口を開いたまま、その様子をながめつづけた。


汁は、膜の内側の面に当たると、すうと消えていった。おれには、膜が汁をすすっているように見えた。それが数秒程続いたとき、突然汁の一部が人の顔の形になった。


背筋が冷たくなった。


汁が形をとったその顔が、死んだ彼女のものだったからだ。痛そうな表情を浮かべながら、その汁は膜の内側の面に吸い込まれていった。




おれはその時わかった。


あの白い汁が、彼女の魂だと。


理性ではなく、感覚でわかった。


それと同時に、この膜の習性をなんとなく理解した。




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