脳をえぐる小説集
中崎は語った。
「今日の夜も、私達はガジを服用して、至福の時間を過ごしていた。すると、私達は神様を見た。ああ、いま思いかえせば、あれは集団幻覚だったのだろうが。私達は部屋の中心に、光輝く美しい神様を見たんだ。神様はこう言った。『嫌魔に包まれ、この世の苦しみを他のひとよりも多めに受け止めてきたあなた達は、神に選ばれし存在です。あなた達の魂を、極楽浄土へ連れていってあげましょう。だからいますぐみんなで、互いの命を奪いあいなさい』。ははは、ふりかえったら、すごく馬鹿げたことを言われていたんだな。わたし達はその言葉を素直に信じて、殺し合いを始めた。恐怖はなかった。極楽浄土への期待で胸を踊らせながら、みんなで楽しく殺し合った。ひとり死んで、またひとり死んで、それを繰り返して、最後に山崎さんという五十代のおじさんとわたし二人が残った。わたしは大理石の灰皿で山崎さんを殴り殺した。山崎さんは笑いながら、目から血を流して死んだ。数分後、君がやってきて、いまにいたる。まあ、そういうわけさ」
「そういうわけさ、じゃねえよ」おれは叫んだ。「何なんだよ、おまえら。まともじゃねえよ。そんな怪しい薬にはまって、それで、殺し合いだなんて」
「ああ、まともじゃないよ」中崎はおれをにらみつけた。「嫌魔にとりつかれた人間が、まともなやり方で幸せになれるわけがないだろう」
その時、中崎はふらりとよろめいて、その場に尻餅をついた。