脳をえぐる小説集
その後、おれは無人の町で適当に生活をした。知らない誰かの家に住みつき、一日中そこで過ごした。腹が減ったときには、近くのスーパーマーケットに置いてある食べ物を盗んで食った。退屈なときには、玩具屋からゲームを盗んでやった。
町から出ようとは思わなかった。
おれが動いたら、嫌魔の嫌悪感の範囲も動いて、また大騒ぎにねるんだろうし、何より面倒くさかった。
町に電気は流れつづけていた。テレビのニュースによると、この町にまだ人が残っている可能性があるので、しばらくは電気や水道は止めないようにしよう市政が判断したらしい。ありがたい話だった。
まわりが無人になったから、嫌われてつらい思いをすることがなくなった。ひさしぶりに、心の休まる暮らしができようになった。
テレビのニュースで、政府の調査団が、耐菌スーツを着てこの町へ入ろうとするところが放映された。何か新種の伝染病が発生したのではないかと疑ったそうだ。彼らは一歩も町に入ることができなかった。当たり前だ。耐菌スーツで嫌悪感を防げるわけがない。この町は、立入り禁止区域となった。避難した住人たちは、政府が用意した非常用の簡易住居で暮らすことになった。