脳をえぐる小説集
目を見開くおれの前で、嫌魔はゆっくりと移動し、利美の全身を包んだ。
突然凄まじいストレスに襲われて、おれはうずくまった。頭が激しく痛み出し、全身に鳥肌がたつ。ぜんそくになったかのように、呼吸がうまくできなくなる。
「お兄ちゃん?お兄ちゃん?」
心配そうに、利美が駆け寄ってきた。
その瞬間、鼻血がふきだしてきた。嫌魔の発する、町からひとがいなくなるほどの嫌悪感を、至近距離でもろに浴びてしまったんだ。
気がつくと、おれは裸足のまま家から飛びだしていた。理性が働かない。肉体がひとりでに、利美から逃れようとする。
それからのことは、あまりよく覚えていない。
とにかくひたすら走りつづけていた。息が切れ、小石で足の裏を切っても、休まずに走りつづけていた。