脳をえぐる小説集
少しずつなんだけどな、嫌魔の嫌悪感に、体が慣れてきている気がするんだ。
嫌魔は確かにとんでもねえ化け物だ。でも、完全じゃないと思う。完全だったとしても、もがいてやる。あらがってやる。あんな胸くそ悪いものに、なめられてたまるか。おれは中崎とはちがうんだ。
おれがあの町から逃げ出してから、もうだいぶたつ。
でも、町の中にただよう嫌悪感は、まだ消えていない。
それは、まだ利美が生きている証拠だ。
嫌魔は利美からはなれていない。利美の魂をすすってはいない。
利美はあの町でひとりで暮らしながら、きっとおれが帰ってくるのを待ってくれているんだ。
もう少し、もう少しなんだ。
おれはあの町の中に入れるようになってやる。そしてもう一度、利美を強く抱きしめてやるんだ。
絶対にな。
終