アロマティック
「話し、聞いてました? 過去にあったことが原因で男を苦手としてるんですよ。その原因の元がなんなのか。そこを解決させなければ聖ちゃんのいう、恋愛モードとやらにもなることはないんですから」

「あ。そっか……なんか、複雑だね」

 さっきまでの勢いはどこへやら? 聖は弱々しい笑みを浮かべ、力なく座り込んだ。

「複雑なのはあなたの頭のなかでしょ。どんな構造してるのか、いっぺん覗いてみたいもんですよ」

 やれやれと、ため息をつく面々。気まずくなった聖は、その場をとりつくろうように、お茶を淹れはじめる。

「それ」

 口もとに湯飲みを持っていきかけた聖を、永遠が止める。

「ん?」

 聖は動きを止め、永遠の視線の先にある湯飲みを見た。

「むちゃくちゃ熱いよ。俺、さっきフーフーするの忘れて口のなか、うっかり火傷したんだわ」

 そう答える永遠の表情はいたって真剣だ。

「うっかりって、永遠……」

 黙ってれば誰が見てもいい男なのに。どこか抜けている永遠と、天然おバカのやり取りに、天音と空が苦笑して顔を見合わせる。

「なぁ」

 それまで静かに文庫本を読んでいた朝陽が、本に目を通したまま口を開いた。

「彼女、恋愛に全く興味がないわけじゃないぜ」

 ページをめくっていた指を止め、朝陽が顔をあげる。
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