アロマティック
 我慢、我慢。
 相手はお酒の入った酔っぱらい。

「結局、騒ぎになっただけで本買えなかったんだぜ? 超迷惑な女だったよ」

「…………」

 頑固で、強情で、つぎは迷惑な女?
 我慢、我慢、我慢……。

 あーもうだめ!

 みのりはテーブルについたこぶしを、強く握りしめた。
 どこの誰だか知らないけど、むかつくその口を閉じてやる。

「貸して!」

 あっと小さく叫ぶ理花から本を取り上げ、となりの個室の前に仁王立ち。突然現れたみのりに、驚いて唖然とする面々のなか、ひとり夢中になって文句を垂れている男に向かって、ためらうことなく本を投げた。

 ゴスッ!

 鈍い音と共に「イテッ」と呻く声。

「いってぇ……! なんだ? お前」

 頭にクリーンヒットした本のダメージが効いているのか、その男は顔をしかめつつ、本が飛んできたほうを向いた。
 淡い照明の下、本を投げた犯人を見ようと身を乗り出してくる。そしてその他に、問題の男と同席していた4人の男の視線も集まる。突然、目の前で繰り広げられた出来事に、唖然とした様子。


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