アロマティック
 動きを止めた永遠が振り返る。

「は?」

 朝陽の発言に耳を疑った。

「俺がみのりもらうよ」

「朝陽、女いるだろ」

「別れた。いまはフリー。永遠がいらないならいいよな?」

「は?」

 永遠は一瞬鋭い眼差しを朝陽に投げかける。次の瞬間には、まるでそんな表情などしなかったかのように肩の力を抜いて、穏やかな笑顔を浮かべた。

「やめとけって。あんな暴力女。本すら凶器にするんだぞ」

 永遠の発言が独占欲からくるものだと朝陽はわかっていた。だからこそ、永遠の気持ちを逆撫でする余裕の笑みで返した。

「それくらい生きがいいほうが飽きないね」

 ふたりは笑顔を浮かべながらも、目は笑っていなかった。永遠と朝陽の視線が激しくぶつかる。つかの間にらみ合いが続き、永遠が先に視線を外した。

「あんな暴力女、相手にしたら体が持たないぞ」

「暴力女で悪かったわね」

「うおっ」

 その声に振り返ると、永遠の後ろに話題の中心人物が不機嫌そうな顔で立っていた。

「いや、だからさ、みのりの暴力は……」

「暴力」

 永遠の言葉をゆっくりと繰り返すみのりの低い声は、凄みが効いていた。

「いや、あー……暴力というか、いまのは俺の口が暴走して暴言を……」

「すみません! 永遠さん、お願いしますっ」

 間の悪いことに、再びスタッフが呼びに来た。
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