アロマティック
「いま行くって! いや、行きます! 頼むから俺のいない間、余計なことはいうなよ」

 後半は楽屋にいる仲間に言い残し、不安げな顔で何度もみのりを振り返り、スタッフを追いかけた。


 酷くない?
 外の空気を吸って気持ちを切り替えてきたっていうのに、最初に耳にした言葉が『暴力女』?
 わたしのことそんな風に思ってたんだ。寂しいような、裏切られたような複雑な気分。いい関係を築けていると思っていた分、みのりはショックだった。
 なんのための、気分転換だっんだろう? 重たいため息をつきながら、みのりは空いている所に座る。さっきまで永遠が座っていた場所だ。
 テーブルを挟んだ向かいには、天音や聖、リーダーが並び、みのりのとなりには朝陽が座っていた。
 なんかもう永遠くんの楽屋じゃなくて、Earthの楽屋になっている。
 わたしがいない間、何を話していたんだろう?『暴力女』とかいってたから、わたしの悪口だったのかな? そんなことを気にしながらみのりがとなりを見ると、朝陽が本を読んでいる。
 文庫本?
 見慣れた花柄の、カバー。

「それ」

 男には不釣り合いな花柄のカバーの文庫本に、わたしのじゃない? 口を開きかけたとき、朝陽が本から顔をあげた。

「みのり、彼氏いんの?」
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