アロマティック
「え?」

 今までまともに会話さえしなかった人が、いきなり何をいいだす。

「いるわけないじゃない」

 みのりははっきり答える。すると朝陽は、テーブルに向けていた体をくるりとみのりに向け、あぐらをかいたまま、器用にふたりの距離を縮めてきた。

「好きなひとは?」

 整ったハンサムな顔が急接近。ダーグブラウンの光彩が肉眼で見えるほど近かった。目力のある澄んだ瞳が真実を見極めようと、みのりを真っ直ぐに見つめてきた。後ろめたいことはなにもない。みのりも負けじと見つめ返す。

「いません」

 怯むことなく、きっぱりと答えた。
 朝陽は内心ほくそ笑む。

「うそだね。どうみたって永遠の彼女だろ」

 会話に食いついてきたのをいいことに、朝陽はカマをかけた。

「彼女じゃねーし」

 みのりはそうはっきりと、暴言を吐いた。
 その場にいた全員が、ぶちギレか? 凍りつく。

「わたしのことはどうだっていいの!」

 みのりはテーブルを叩く。その音の大きさに、その場にいる4人が怯んだ。

「朝陽くん、ちょっとあなた、ここに座りなさいよ!」

「いや、もう座ってるけど」

「人見知りなんだか、彼女さんとうまくいってないんだか、そこのところはよく知らないわよ。ある程度理由は聞いたからわかってるつもりだけど、けど、冷たくない? なんかわたしに冷たくない? わたしだけに冷たくない?」

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