アロマティック
 地面に座り込んだみのりは、永遠の手に向かって持ち上げた手を、つかの間ためらってから戻した。

「………?」

 みのりの不自然な行動に、永遠が訝しんだ。

「大丈夫ですから」

 転んで所々痛いところはあったが、堪えられないほどの痛みではない。みのりは笑って頷く。
 なぜか手を取らず他人行儀のみのりの態度に、永遠には納得のいかない表情が浮かんだ。
 自力で立ち上がったみのりは、軽く服を叩いて汚れを払うと、大事なトランクを拾い上げた。

「行きましょう」

 立ち尽くしたままの永遠を促して、建物の自動ドアを通りすぎる。ここまで来れば安全だ。みのりは緊張を解いた。
 納得のいかない永遠と、自分に起きたことへの動揺を隠すみのりは会話もなく、沈黙のまま楽屋へと入る。既に来ていたメンバーの、リーダー、聖、天音と挨拶を交わしたみのりは、黙り混んだままの永遠を振り返る。その永遠の表情は未だ曇っていた。

「さっきのはなんだよ」

 永遠の声に苛立ちが表れている。

「外ではあまり親しくしないほうがいいと思う」

 ファンの人たちの反応に気づかなかったの? みのりは感情を押さえながら意見を述べた。

「心配もしちゃいけないのか?」

 どことなく不穏な空気のふたりに、異変を感じた皆が顔を上げる。

「心配してくれるのは嬉しい。けど、外で親しくするのはよくないと思う。周りの目もあるし、困るのは永遠くんだから」
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