アロマティック
 救いようがない。
 使いなれたアロマの無惨になった姿に、胸がえぐられたような気持ちになった。

「本当に怪我ないか? ちゃんと確かめたか? 怪我してないな?」

 永遠の手が、唖然と立ち尽くしたままのみのりの肩にかかる。彼女の体を自分のほうへ向け、頭から足の先まで永遠の視線がくまなく調べていく。

「よし、外傷はなさそうだ」

 無事を確認し安堵した永遠は、みのりの異変に気づく。アロマ基材が乱雑に散らばったトランクを見つめる瞳が、大事なものを失い、頼りなげに揺れていた。

「俺が弁償する」

 永遠は頭で考えるより早く、そう口走っていた。
 弁償!? その言葉に我に返ったみのりが、顔を上げる。

「えっ!? 弁償なんていいよ。もともとは、自分がいけないんだから」

「仕事中の事故だろ」

「でも、自業自得だから。わたし、今日はもうなにもできないね……」

 アロマアドバイザーとして永遠についているのに、必要なアロマ基材がなければ、ここにいる必要性もない。
 いまのわたしは、用なしだ。

 普段からアロマ基材を大事に扱うみのりを知っている永遠には、彼女が落ち込む様子が手に取るようにわかった。
 相手は生き物ではないが、愛情を持って接してきた分、いかんともしがたい気持ちになるのだろう。
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