アロマティック
 だからこそ一緒にいて居心地がいい。だから、そばにいたい。
 自分を盾にしても『いま』を守りたかった。
 いったいどうすれば、わたしの気持ちを伝えることができるんだろう?
 伝えるためには永遠と話し合わなければいけない。
 そのためには、まずこのドアを……。

「……?」

 ドアノブから音がした気がして、みのりは目をみはった。じっと見ていると、そのドアノブがゆっくり回り……信じられないことに、ドアが開いた。予想もしなかった展開に、驚いたみのりが一歩下がる。やがて、ドアの向こうから顔を出したのは。

「永遠、くん……」

 顔を見上げたみのりがまず確認したのは、永遠の顔色だった。そこにはいつも通りの貴公子のような整った上品な顔。特別不機嫌そうなところも、『手負いの猛獣』らしきところも見当たらない。

「なに?」

 じっと見つめていたみのりに問いかける永遠は、予想していた態度とは違い、いつもとあまり変わらない。返って調子が狂う。返す言葉を考えていなかったみのりは、その場に立ち尽くす。永遠は棒立ちのみのりに顔をしかめた。

「俺の顔になんかついてる?」

「う、ううん」

 慌てて首を振るみのりに、無表情を装った永遠が、頭を下げて顔の高さを合わせ、寄せてきた。
 この距離感はいったい……。
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