アロマティック

男子トイレという密室で

 例えば、バーゲンのワゴンセールに群がる人たちのなかに、無関心な人間がひとり投げ込まれたらこんな気分になるんだろうか?

 目の前で楽しげに飲み交わされるお酒。幼馴染みの理花以外は、男、男、男、男、男!!
 さっきまで、わたしは理花と女子会してたよね?
 自分が置かれた状況に納得できないまま、みのりは険しい表情で首をかしげた。

 本人たちを前にしながら、今どき「Earth」をろくに知らないという恥をさらけ出し、その場にいた全員が声を揃えて驚くという事態を巻き起こしたみのり。
 ある意味天然記念物級だと面白がられ、「Earth」の興味を引いてしまった。
 これ以上注目を浴びると困るから、こっちで話そうとありえない誘いを受け、同席を求められたみのりはとんでもないと、拒否ろうとしたら、両手を合わせ瞳をうるうるさせて沈黙のお願いをしてくる理花に、引くに引けなくなった。
 今回限り。最初で最後。
 そう自分に言い聞かせ、現在に至る。

 「Earth」と同席。
 だからなに? それがどれだけすごいことなのか、みのりにはいまいちピンと来なかった。
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