アロマティック
 みのりの心が震えた。
 このひとは、わたしの気持ちをわかってくれている。
 視界が歪んで涙が溢れそうになる。

 だめ。
 泣いたりなんかしない。

 みのりの手を握っていた永遠が、頬を撫でる。まるで励ましてくれているようで、永遠のひととしてのぬくもりが、みのりの胸をいっぱいにする。
 すぐに気持ちを切り替えることはできないけど、過去を話したことで、これを機に、前に進めそうな気がした。
 ずっと胸の奥に仕舞い込んでいた過去を話すことによって、僅かだが解放感みたいなものを感じていた。
 永遠が撫でていた頬が、両手でそっと挟まれる。永遠が目の高さを合わせて近づいてくる。

「その相手ってはじめて会った日、話してた奴だよね?」

「うん」

 頷いたみのりに、目を閉じた永遠が額をくっつけてきた。そのまま深くため息をつく。

「くそっなんかむかつく」

「え?」

「なんでみのりのそばにいたのが、俺じゃなかったんだろう」

「永遠くん……」

「俺が支えてあげたかった……!」

 頬を挟んでいた手が背中に回り、引き寄せられる。あっという間に、永遠の落ち着く匂いに包まれる。硬い胸板に押し付けられたみのりは声も出せなかった。

 永遠が久しぶりに腕に抱いたみのりから、彼女らしいアロマの香りが漂ってきた。これは、バラの香りだろうか?
 ほっそりとした小さなみのりのぬくもりを、服の上から感じたとき、永遠は悟った。
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