アロマティック
 永遠くんと初めて会ったあの日、先に姿を消してしまったみのりちゃんの連絡先を聞かれたときは、いくら相手が天下のアイドルとはいえ、正直迷った。
 芸能界に身を置く、ましてや人気アイドルのそばにいるということは、みのりにとって諸刃の剣でもあるから。
 でも理花は、この奇跡的出会いに感じるものがあった。
 この出会いが、幼馴染みの人生を大きく左右するかもしれないという、女の直感。
 それに賭けてみたいと思った。
 いい方に転がるか悪い方に転がってしまうのか、不安がなかったわけではないけれど、いまのみのりを見ていると、想像以上によい方向へ転がったみたい。
 理花は安堵のため息をついて微笑んだ。

 いままで辛い経験をしてきたぶん、これからは幸せでいてほしい。
 みのりにはその権利がある。

 永遠くんなら。
 いまのみのりなら。

 ―――きっと大丈夫。

「とかいって本当は賄賂に心が動いたんでしょ」

 理花が我に返ると、買い物を終えたみのりが、いつの間にか目の前に立っていた。

「えっあれー? いま口に出していってたー?」

 ふたり並んで歩き始めながら愛想笑いを浮かべる理花に、みのりが不服そうに目を細めて迫る。

「いってた」

「え~っと、あっ! いたぁ~いっ」

 逃げるように目を泳がす理花の額に、みのりは軽くデコピン。一瞬唖然とした理花が次に見たのは、許しの笑顔だった。
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