アロマティック
 最近、永遠の近くにいたいと思う反面、逃げ出したくなるような複雑な気持ちに悩まされている。
 いまも、みのりは胸をドキドキさせつつ、永遠の待つ席へ向かった。
 テーブルの上にボトルマグの入った買い物袋と、前日新しく新調したアロマ基材の入ったトランクを置いて座る。

「おはよう、みのり」

 永遠が雑誌から離した片手をあげ、みのりもそこに手を合わせてハイタッチ。手が離れる前に、交互に指を絡ませた永遠がみのりの手をぎゅっと優しく握りしめた。
 何気ない親密な行為に、心臓がドキドキと暴れだす。
 落ち着け、心臓。
 みのりは永遠に気づかれないようにそっと深呼吸をして、気持ちを静めた。
 永遠とぶつかり合ったあの一件以来、彼をより近く感じるようになった。
 というか、くっついているというか……ふたりきりでいるときは、必ずといっていいほど永遠のほうからどこかに触れてきている。
 いまもハイタッチから繋いだままの手を離さず、絡ませたままテーブルの下で繋がっていた。こんなときは、みのりのほうは気持ちが乱れるのに、永遠のほうはリラックスした様子で開いた雑誌をテーブルに広げて読んでいる。その端整な横顔。みのりはゆっくり深呼吸を繰り返しながら、目鼻立ちの整った貴公子のような顔にしばし見とれた。
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