アロマティック
 沈黙のなかで、何か問いかけられているような気持ちになる。
 最近になって、こういうことが度々続いている。

 永遠は何を求めているの……?

 知りたいけど、怖い。
 もし、このまま引き寄せられたら?
 もし、永遠が顔を近づけてきたら、わたしはどうするの?

 高鳴る心臓。
 不安から? 期待から?
 はち切れそうな緊張感。雰囲気を変えたくて会話を探すも、話題が見つからない。
 落ち着きをなくしたみのりの指が、テーブルに置かれたマグの側面を掠め、静かな室内に小さな音が響いた。ハッとした永遠が、夢から覚めたように我に返る。

「……よし、体でもほぐすかー」

 取り繕うように一回その場で伸びをして、椅子から下りる。広い床の上に長い足を伸ばすと、上半身を倒して前屈を始めた。
 いまさっきまでの親密な雰囲気がまるで嘘だったかのような態度に、置いてきぼりにされたみのりは戸惑い、どうしたらいいのかわからなくなってしまった。無造作に並べていたマグを無意識に並べかえしながら、チラリと永遠を見る。歌って踊るアイドルの前屈に、

「永遠くん、硬い」

 思わず正直な呟きがもれる。足の爪先に、手の指が届いていなかった。
 ものすごい勢いで顔をあげた永遠の目が座っている。
 ……もしかして、失言だったのかな。みのりは内心焦った。
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