アロマティック
 室内を見渡すと、メンバーとみのりから遠い壁際に、なぜか皆から背を向けるようにして、壁に向かって突っ立っていた。

 永遠……?

 怒ってるのかな。
 見えている広い背中だけでは、表情がわからない。

 唯一、気まずい現場の目撃者の聖は、みのりと永遠を交互に見つつ、なにかいいたそうにしながらも口を閉じたまま椅子に座った。他の3人に関しては、現場を押さえていないからか、いつも通り雑誌を読んだり、スマホを弄ったり、寛いだ様子で過ごしている。
 みのりの心境は、とても寛げる精神状態ではなかった。
 キスをしていたところを見られたわけじゃないけど、キスしようとしていたのを見られたのは間違いない。
 さっき、わたしは永遠からのキスを待って……た?
 永遠と離れたことで、心が寂しさを感じているのはなぜなの?
 ……待って。
 答えがまとまらない。頭の中が混乱しているみたいだ。

「わたし、ハーブティー、作ってくるね」

 買ったばかりのボトルマグと、ハーブティーを作るために一通り用意したものを、慌てて袋に詰め込んだ。必要なものを入れてしまうと、みのりは逃げるように、リハーサルスタジオから飛び出した。

 出ていったみのりの靴音が廊下から遠のき、彼女の気配がなくなると、各々寛いでいた4人は顔を上げた。ひとり、壁に向かって突っ立っている永遠に視線が集中する。
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