アロマティック
 なにより。
 凌の言葉に乗せられて、のこのこ家に戻った結果、浮気の現場を見ることになったバカな女だって、思われるのが嫌だった。

「あいつがいるからってお前がいなくなる必要ないだろ?  気に入らないなら俺がぶっとばしてやる。つか、今すぐぶっとばしてやりたい気分だけど」

「………だめ」

 そんなことしたら、スキャンダルになって迷惑をかけることになる。
 今まで永遠が築き上げてきたもの全てが、一瞬にして消えてしまう。

「いや。このままじゃ俺の気がすまない」

 静かな口調だからこそ余計に真実味があって、本当にやりそうだ。

「そんなことしたら永遠くんがバッシングされるんだよ。それは絶対、だめ」

「周りの目なんか関係ない。俺が守りたいのは俺じゃない。みのり、お前だよ。お前を傷つけた奴が近くにいて、黙って見てられるわけないだろ」

「永遠くん……」

 みのりは永遠の胸から僅かに顔を離し、彼を見上げ、真っ直ぐな眼差しで見下ろす永遠と見つめ合う。

「あいつからみのりを守る。どこにもいかせない。お前がいる場所はここだろ」

 背中に回された腕に、力が込められる。

「永遠くん……でも、わたし」

「でも、はなしだ。みのり、お前、自分の仕事途中で投げ出すの? 中途半端で逃げるのか」

 躊躇うみのりに、永遠は作戦を変え、わざと彼女を煽った。
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