アロマティック
 みのりは下で待っている皆がよく見れる窓際に寄った。皆を見つけ、手を振るみのりは見るからに楽しげだ。
 片手や両手で大きく手を振り返してくれる各々に、笑顔で応える。ゆっくり小さくなっていく皆と、手の振り合いに一段落したみのりは改めて座り直す。そこで、ゴンドラに乗ってからというもの、下の皆に手を振るのに夢中だったのもあるかもしれないけど、永遠と一言も口を聞いていないことに気づいた。
 反対側に座る永遠は、入ってきて座った場所から固まってしまったように少しも動いていない。普段の姿勢正しく、堂々とした彼らしさは影を潜め、背中を丸めているのかいつもより小さく見える。

「永遠くん?」

「………」

 聞こえなかったのかな?
 反応がない永遠に、不安を覚えたみのりは、もう1度呼び掛けてみる。

「永遠くん?」

「……ん、なに?」

 ようやく声が届いたらしい。
 ぼんやりしてるのかな?
 いつもと反応がちがう。

「大丈夫? 撮影の初日で疲れた?」

「いや、大丈夫」

「………」

「………」

 なんだろ。
 会話が続かないと、永遠の存在を意識してしまう。
 ゴンドラという密室で、二人きりだと思うと余計に。
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