アロマティック
「だったら乗る前にいってくれたらよかったのに」

「いや、みのり楽しみにしてただろ」

「永遠くん……」

 苦手なはずの高いところ、文句も言わずに付き合ってくれた永遠の優しさが胸にしみた。

「そろそろ一番高いところに着くよ。いまね、遊園地全体が見渡せて、夜景がとっても素敵」

「みのり、実況はいいから」

「ね、となりに来たら? 一緒なら少しは怖くないんじゃないかな?」

 いつも助けてもらってるから、こういうときは力になりたい。みのりは永遠の手を引っ張った。

「みのり……! うわっやめっ足がっすくんで……っ」

 みのりに手を引かれたまま、ゴンドラの固い床に両手をついて座り込んでしまった。

「ゆ、揺れるー!」

 永遠、絶叫。

「永遠くん、大丈夫だから」

 パニック状態の永遠を、もとの位置に座り直させることもままならぬ状況。助けたい一心で、みのりは深く考えるまでもなく両手を差しのべていた。
 顔をあげた永遠が膝立ちのまま救いを求めるように手をのばし、みのりの背中に腕を回して身を引き寄せると、その首もとに顔をうずめた。

「ね、大丈夫」

 みのりも永遠に手を回して、安心させるように優しく背中を上下に撫でた。
 永遠は落ち着いたのか、暴れることもなくじっとしている。
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