アロマティック
「………」

 みのりの体温。香り。髪からただよう彼女らしいバラの香り。
 服を通して感じるみのりのぬくもりと、鼻腔から届く彼女の優しい匂いに、高さへの恐怖が一瞬で吹き飛んだ。
 全神経がみのりに向いて、彼女のことしか考えられなくなる。
 仕事をしている間、触れたくて仕方なかったみのりと抱きあって、我慢できるわけがない。

 みのりが

 欲しい―――。

「あの、永遠くん? 首に息がかかってくすぐったいんだけど、あっ……」

 いっているそばから生暖かい何かが首すじをなぞり、驚いたみのりは小さい声をあげてしまう。

「とっ永遠くん!?」

 濡れた感覚のあとに触れる空気が冷たく感じられた。
 もしかして舐められた!?
 反射的に離れようと身を起こすも、がっちりと抱き締められていて離れない。

「とっ永遠くん、いま高いところにいるんだよ? 怖くないの?」

「平気」

 くぐもった声。
 柔らかな唇が移動して、こんどは鎖骨の辺りに押しつけられる。

「永遠くんってば! ここ、ゴンドラのなかなんだよっ地上からどんどん離れてるんだから!」

「うん」

 やめさせようと懸命に話しかけるみのりに、真面目に答える気はないようだ。
 僅かに離れた唇が、再び肌のうえに押しつけられる。
 温かくて、柔らかくて、優しい。
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