アロマティック
「あっ」

 聖が嬉しそうな声をあげ、みのりを見つけた。その瞳は新しいターゲットにキラキラと輝いている。

「うっ……」

 ロックオンされたみのりは、嫌な予感に背筋を冷たいものが流れた。

「みのりちゃーん?」

「と、トイレ!!」

 ハイテンションて迫り来る聖に、カバンを掴んだみのりは逃げ出した。

 聖から無事に逃げおおせたみのりは、女子トイレに入る前、通りすぎた男子トイレのところで意識的に耳を澄ませた。音もなく静かで、誰も使ってないようだった。
 トイレを済ませたみのりは、女子トイレを出て男子トイレの前をゆっくり歩いて、入り口で立ち止まる。
 賑わう店内と違いトイレに通じる廊下は静かで、もし誰かが入っていたとしたら、水を流す音や手を洗う音が聞こえてきそうなものだ。だか、男子トイレからは靴音ひとつしない。
 もしかしてトイレにいないのかも? もしくは席に戻っているか。
 まさか、トイレでひっくり返ってたりとかしないよね? でも、もしトイレで倒れているとしたら大変だ。
 いまはまだ、戻ったら大歓迎で迎えるであろう聖の待つ席に、戻りたくない。
 周りを見渡すと人が来る気配はなかった。
 永遠がいるかいないか、確認だけしてみよう。
 みのりは抵抗を感じながらも、勇気を出して、人生初の男子トイレに足を踏み出した。
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