アロマティック
 撮影に入る前の凌には、必要なことだけを伝える。

「グレープフルーツは」

 綺麗に陳列されたアロマのなかから、グレープフルーツの精油を取る。

「果実そのものの爽やかな香りが特徴。沈んだ気持ちをポジティブにしてくれたり、食欲を押さえるダイエット向きの精油だけれど」

 みのりが説明を始めると、凌の表情が引き締まり、ひとことももらさぬようじっと聞き入った。

「忘れずに伝えて欲しいのは、グレープフルーツ、レモン、オレンジ、ベルガモットの柑橘系にはだいたい光毒性があるということ」

「光毒性?」

「紫外線に当たるとベルガプテン成分が毒性に変わって、直接肌につけると炎症を起こしてしまったりシミの原因になってしまうの。入浴に使ってもいいけど、皮膚刺激が出る場合もあるから。だから、使うなら芳香浴が安心。芳香浴した後もできれば6~8時間は紫外線に当たらない方がいいと伝えて」

 凌は、ポケットから小さいメモを取り出して、注意点をいくつか書いた。

「ありがとう。わかりやすい説明だった」

 素直に感謝を述べる凌に、頷いたみのりは背中に視線を感じながらも足早に裏方へ回る。
 撮影を見守っていると、凌はポイントを押さえ大事なことを確実に伝えていた。


 凌は、裏表のない真っ直ぐなひとだった。
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