アロマティック
 そんなことを思い出して感じたのは、懐かしさだけだった。
 最悪の裏切りをしたひとが、もう2度と会わないと決めていたひとが、目の前で、当たり前のように動いている。
 数日前までは考えられなかった光景。
 以前と違うのは、あの頃よりも大人びた表情と、どんなことも受け入れて前向きに取り組む姿。
 変わってないのは、なんでも自分勝手に強引にもっていこうとするところ。

 こんなこと考えたくない。
 永遠くん、早く帰りたい―――。
 永遠の整った顔が笑顔で輝くのを思い浮かべ、みのりの心は切なくなった。

 お昼。
 みのりが口元に持っていく箸をじっと見ていた凌が、話しかけてきた。

「相変わらず小さいね。ちゃんと食べてるのか?」

「食べてます」

「前からいってるだろ。ちゃんと食べないと大きくならないって」

 割り箸を持つ手を掴まれそうだったので、慌てて胸の前に腕を引いた。

「これ以上大きくなりません」

 つっけんどんに返す。
 凌のおせっかい。
 昔からそうだった。
 身長が小さいのはちゃんと食べないからだと、色々買ってきてはわたしに食べさせようとしてた。
 だいたいどうしてお昼のお弁当、凌と並んで食べなくちゃいけないの?
 ちゃんと、凌が外で撮影スタッフと仲良くお弁当を食べているのを確認して、凌と距離を置ける場所を探した。倉庫兼事務室で貰ったお弁当をひとりで食べていたところに、凌が勝手に入り込んできた。
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