アロマティック
 アロマ基材の入った段ボールに囲まれた室内。机には電話や書類の入った棚が置かれていてあまり広く使えない。そんなところに遠慮を知らない凌が、どこからか丸椅子を探してきてとなりに座ったのだ。
 退出しようとすれば、段ボールの壁と椅子に座る凌の後ろを通らなくてはならない。ひとひとり通るには狭すぎる道幅。出入り口のあるドアに向かうためには、凌に触れることは避けられない。
 これでは落ち着いて食べれない。
 凌からの視線に晒されながら食べるのは辛い。割り箸を置いて食べるのを諦めた。

 他の役者さんは帰ったが、午後に少し残っている撮影のために、みのりは凌と居残りをさせられていた。
 でも、あと少し。
 あと少ししたら、凌と離れられる。
 もう少ししたら、永遠くんに会える。
 早く永遠くんに会いたい。

「もう食べないのか?」

 重いため息に凌が気づいたらしい。誰のせいでご飯を諦めたのかには気付いてないようだ。

「ひとりにしてくれたら食べる」

 ペットボトルのお茶を飲んで、味のしなくなったおかずを流し込んだ。

「邪魔者がいないときくらいしか、みのりとゆっくり話せないからな」

 Earthのことね。
 凌の言い方にいちいち腹をたてるべきではないと、感情的になってはいけないと自分に言い聞かせる。
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