アロマティック
「ライバル視してもらってるってことでいいですか?」

 永遠はつかの間目を閉じ、開いた瞳は自信たっぷりに輝いた。

「ないな」

 短く告げた永遠は、フッと不敵な笑みを浮かべる。

 出入り口で、鼻と鼻がくっついてしまいそうなほど近くでにらみ合うふたりがなにを話しているのか、みのりのいるところまでは届かないが、その雰囲気から楽しい会話をしているわけではなさそうだった。つかの間にらみ合い、やがて凌が退き姿を消した。永遠がドアを閉め、そこに体重をかけてよりかかる。


 永遠が来てくれた。
 いますぐ駆けていき、胸に飛び込みたいのをやっとの思いで我慢する。

 張りつめていた空気が、今度は違う緊張感に包まれる。

「大丈夫か?」

 自分を抱きしめるみのりが、小さく頷く。

「何もされなかったか?」

 永遠がみのりの全身に視線をさ迷わせ、気づかいながら歩いてくる。

「……大丈夫」

 みのりの目の前に立つ永遠は、彼女を挟むようにテーブルに両手をついた。

「呼んだだろ?」

「え……?」

「俺を。永遠って、みのりの声が聞こえたんだ。だからさっさと仕事を終わらせてきた」

 見上げるみのりと見おろす永遠の距離は、少しでも動いたら触れそうなほど近い。
 永遠がいてくれるだけで、こんなにも安心感に包まれるなんて。
 でもどうしてこんなに近くにいるのに、わたしに触れてくれないの?
 永遠くんの手で腕で、体で、抱きしめて。
 キスして。
 あなたが足りない。

 そう願うのに、永遠はじっと見つめたままで動く気配さえない。

「どうして触れてくれないの?」
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