アロマティック
 ドアを軽く叩く音がして、我に返ると、

「ぼくのハーブティーは出来た?」

 給湯室に、天音が入ってきた。

「出来たよ」

 笑顔で答えると、自分の何倍も可愛らしい天使の微笑みが返ってくる。
 突然現れた天音に当たり前の質問を投げかけた。

「どうしたの?」

「時間が空いたから、たまには手伝おうと思ってさ。みのりちゃんの荷物持ちは慣れてるから」

 前に自販機でペットボトルを持たせたこと、微妙に根に持ってるのかな?
 思わず苦笑いが漏れる。
 天音くんは優しいけど、荷物持ちを手伝うためだけにここまでくるだろうか?
 天音が動くときに、そこに必ず理由がある。


 ハーブティーを入れ終わったボトルマグを並べて、トートバックを取り出しながら、みのりは考えた。
 話したいことがある?
 トートバックにボトルマグを入れて用意をする間、沈黙がふたりを包み、準備が出来たことを知らせようと顔を上げたところで、流し台に寄りかかって、じっとこちらを見つめる天音の視線とぶつかった。

「大丈夫?」

 いつもの毒舌も影を潜め、天使の笑みの消えたそこには、気遣いが表れている。
 すぐになんのことを心配してくれているのか気づいた。

「うん」

 みのりは頷く。
 永遠がいてくれるから、皆が見守ってくれるから。

「わたしは大丈夫」
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