アロマティック
「裏をとったら、アロマ指導のスタッフが仕事を休んだのは凌の指し金じゃなく、本当に病気だった。そこはちゃんと確認したんだ。でも、油断しないで」

 寄りかかっていた流し台から離れ、みのりに近づく。永遠とまではいかなくても、天音も身長が高い方なので、小さいみのりは見上げる形になる。真剣な表情で見下ろす天音からは柔らかさが消え、男らしさが漂う。

「あいつの過去を調べたら、女性関係の浮いた話しはひとつも出てこなかったんだ。あいつはあいつなりに、本当にみのりちゃんを探していたんだよ」

「……知ってる。そんなようなこといわれたから」

 自分で集めた情報を伝えて身の危険を知らせてくれる天音に、正直に打ち明けた。

「絶対、油断しちゃだめだ」

「うん、わかってる」

「直江凌、か。貪欲だったからこそ、役者として成功したんだろうね。でも、みのりちゃんに関して貪欲になられるのは困るな」

 疲れたようなため息をついて、天音がボトルマグの入ったトートバックを手に取った。

「これ以上ライバル増えたら……」

「ライバル?」

「まぁ、ライバルにもならないか」

 顔をあげて人差し指で自分の唇を叩き、くすりと笑う天音の発言に耳を疑う。

「……え?」

「まったくもう。ほら、行くよ」

「え? あ、うん」

 ドアを開けたまま待ってくれる天音の後を慌てて追う。
 ライバル?
 なんの? 天音の発言に首を傾げながら後をついていくと、目の前を行く天音の背中が止まった。ぶつからないように、みのりも慌てて止まる。
 みのりに声が届くよう、天音は横を向き、

「とにかく、助けが必要なときは遠慮なくいって。ぼくも、メンバーの皆も、いつだって、それが例え夜中だって駆けつけるから」

 わかった!? 念を押し、その勢いに慌ててみのりが頷くのを見届けると、答えに満足したのか、メンバーの待つスタジオへ向かった。
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