アロマティック
 走る車内をネオンライトが時おり通り過ぎる。みのりは複雑な思いでそれを見つめた。
 膝の上に乗る、温かな重み。目を閉じて眠る永遠。膝枕をして、こうして柔らかな髪を撫でながら車で送ってもらう生活にも慣れてしまった。

「どうした?」

「え?」

 問いかけてくる永遠の声は、低く響いて耳に心地好い。彼の髪を撫でている手が止まった。はっきりとした声の調子から、寝ていなかったことがわかる。頭を撫でていた手が掴まれ、ハッとした。視線が引き寄せられて薄闇のなか、膝の上から見上げてくる永遠と見つめ合う。

「最近、ふとした表情がさみしげだぞ」

 永遠は気付いてる。
 わたしの心の動揺を。
 嘘はつけない。
 だから半分だけ、自分の気持ちを正直に口にする。

「アロマティックもそろそろ終わるって考えたら、ちょっと寂しいなって、思ってたの」

「そうだな。たくさんのひとの力が集まってひとつのものを作るときは、団結力が必要なんだけど、アロマティックはその団結力が大きかった。そのぶん、撮影が終わって散り散りになるのは寂しいものがあるよな」

「うん、やりがいのある仕事だった」

「こらこら、仕事はまだ終わってないぞ。過去形にするな」

「ごめん、そうだね」

 永遠との出逢いからを勝手に頭のなかで再生して、なんだかしんみりしてしまった。

「クランクアップのあと、打ち上げがあるんだけど、みのりもぜひって皆がいってる。一緒に出ような」

「打ち上げ……」

 ってことは、スタッフ関係者、出演者全員が揃うわけだ。そこには凌も。
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