アロマティック
 永遠がいて、そこにはぬくもりがあって、胸を騒がすドキドキもあって、落ち着いたやすらぎもある。
 貴公子のように上品な顔に、細身の長身。一見、完璧な男かと思いきや、ときにはやんちゃな顔を見せたり、どこかヘタれたところがあったり。
 ときに見せる、人間臭いとこがたまらなく魅力なんだと思う。
 ふざけていたら家のほうから近づいてきたみたいに、あっという間に着いてしまった。
 今日、永遠と一緒にいられる時間はこれでおしまいだ。

「お疲れ。また明日な。おやすみ」

「おやすみ」

 少しもの悲しさを感じながらも、永遠を乗せた車が遠ざかるのを、みのりはいつものように家の前で見送った。
 不意打ちのキスにはびっくりしたけど、これからも度々こうしてキスされちゃうのかな?
 次のキスはいつだろう?
 なんて考えると、楽しみでもあるし、ドキドキでもある。
 キスの先にあるのはどんな関係?
 あなたの気持ちは……?
 聞きたいと願ってしまうのは、よくばりだろうか?


 ドアに鍵を通し、電気の入っていない暗い家のなかへ入る。
 内鍵を閉めようと手をあげたとき、信じられないことが起こった。
 閉めたはずのドアが、猛烈な勢いで開いたのだ。

「……!」

 風圧と共に、大きな人影が素早く入り込んできた。
 玄関で、唖然と立ち尽くすみのりの目の前に、何者かが現れた。窓から入り込む外灯の光を通して輪郭が浮かび上がる。
 そこには、思い詰めた表情の凌が立っていた。
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