アロマティック
 トイレの男たちを強く意識していたみのりは、永遠の予想もつかなかった変顔に、完全に意識を持ってかれた。
 あたふたしているみのりを見て、当の本人はどや顔でにやりと笑う。
 みのりは体を曲げて、お腹の底から込み上げてくる笑いに必死に抵抗していた。
 笑いたい。でも、こんな状況に追い詰めた永遠に腹立つ!
 平常心を取り戻そうと四苦八苦している間に、トイレのなかは再び静けさを取り戻していた。
 もしかして……変顔は気をまぎらわせるためにわざと? 
 それにしても。
 みのりはあらためて永遠に向き直る。永遠はとぼけたふりで天井の火災報知器を気にしている風を装っている。無防備なその胸に向かって、軽くパンチを食らわせた。

「いってぇ! なにすんだチビ子! ぐはぁぁぁ」

 みのりに殴られた場所を押さえ、苦しげな声で呻く。

「さっきからチビ子チビ子ってなに!? だいたいそんな強く殴ってないわよ!」

 鼻息荒く、胸の前で腕を組んだみのり。
 すっかり永遠のペースにはまった様子のみのりに、永遠の表情が緩む。
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