アロマティック
 永遠はあらためてみのりを見た。
 特別可愛いわけではない。可愛い、美人な女はホームベースでさんざん見てきた。それでも小顔の周りをセミロングが包む、色白の童顔は引かれるものがあった。
 初対面の本屋では身長の低さに、最初は子供かと勘違いしたくらいだ。しかし、よく見ると、出るところはしっかり出ている女性の体形。目を引くのはぱっちりとした大きな瞳。口づけをねだるようなふっくらとした唇は、口角が引き結ばれてどこか冷たい印象さえ与えている。
 出会ってから自然に笑う彼女を見たことがない。きっと柔らかい声をあげて笑う姿は、印象をがらりと変えるだろう。
 永遠はみのりの笑顔を見てみたいと思った。

「席に戻る」

 みのりの不機嫌さを露にした声に、永遠は現実に戻され、ハッとする。見ると彼女が掛け金に手を伸ばすところだった。
 もう少し話しがしたい。
 永遠は咄嗟に、

「俺、失恋したんだ」

 永遠の突然の告白に、みのりの手が止まる。

「え?」

 驚いたみのりが顔を上げると、うつむき加減の永遠の瞳とぶつかった。その悲しげな瞳には、手をさしのべてあげたくなる脆さが映っている。変顔からがらりと変わる永遠の態度。まつげを下ろし揺れる瞳に、みのりの手が掛け金から離れた。
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