アロマティック
「えっ? あっ――」

 永遠がみのりを見つめたまま、彼女の腰をつかみ軽々と持ち上げ、彼のあぐらをかいた腿の間に移動させる。

「と、永遠くん」

 戸惑いをみせるみのりを永遠はそっと抱きしめた。みのりも永遠の背中に腕を回して抱きしめ、堅い胸板に頬を預ける。たちまち彼の香りとぬくもりに包まれ、満たされる。

「ふたりでいるときくらい、君づけはやめてほしい」

 胸を通して永遠の声が伝わってくる低音ボイスが心地よい。このままいつまでもこうしていたい。
 みのりは頷いて、声に出した。

「……永遠」

 永遠はなにもいわず、抱きしめる腕に力を込める。みのりが名前を呼ぶ声に聞き入っているらしい。

「あの、永遠……?」

「……ん?」

「あの、あのね」

 なんていったらいいの?
 永遠の体が。体の一部が……。
 わたしの下腹部に、永遠の硬くなったものが当たっている。
 嫌じゃないんだけど、いいというわけでもなくて。
 気になったら胸が騒ぎだし、永遠の腕のなかにいることにも落ち着かなくなってきた。

「気にするな」

 そういわれても、昨日と違って今朝は感情の波に飲まれていないぶん、欲望よりも恥ずかしさが勝った。

「あの、仕事行かなくちゃ」

 永遠から身を引き離す。みのりを抱きしめていた場所に彼の手が浮いたまま止まっていて、なんとなく寂しそうではあるけど、気まずいし、ゆっくりしている時間もない。
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