アロマティック
「あの、先に出るから、鍵をお願いしていいかな?」

 テーブルの鍵を指さすと、腕を下ろした永遠が諦めたようにため息をついた。

「わかった。鍵かけて持ってく」

「じゃあ、お先に。いってきます」

 永遠からの、いってらっしゃいも聞かず、玄関先のトートバッグを掴み、逃げるように飛び出した。


 永遠は、閉まった玄関のドアを見つめた。
 うーん、どうもみのりを抱きしめると体が反応してしまう。やばい状況だ。
 抱きしめる=俺の分身が目を覚ます。
 このままではみのりを抱きしめることができない。
 好きだからしょうがないんだけどな……みのりはまだ、怖がっている。
 ただ、したいだけじゃない。そばにいていつまでも触れていたい。同じ思いを共有したい。その先にあるのが、愛の行為だと最近になって気づいた。
 感情が高ぶっていた昨日とは違うのだろう。感情よりも理性が勝っていたみたいだ。
 みのりの気持ちを動かして、同じ気持ちを共有したい。余計なことを考えられなくなるくらい、俺に惚れさせたい。
 時間はたっぷりある。なにも焦ることはないのだ。
 とりあえず、いまは俺にできることをやるか。
 永遠が立ち上がると同時にお腹がぐぅと鳴る。

「……?」

 キッチンの台所に、皿に乗ったハムチーズのサンドイッチがラップに被せて置いてあるのが目に入った。
 さすが、みのり。
 永遠は腹ごしらえをするため、ありがたく頂くことにした。
< 278 / 318 >

この作品をシェア

pagetop