アロマティック
「顔、大丈夫そうだな」

「はい、おかげさまで。そうだ。永遠さんとみのりにお願いがあるのですが」

「お願い?」

「クランクアップの翌日、ぼくに時間を貰えませんか?」

「時間?」

 凌は頷くだけで、どうしてなのか理由をいうつもりはないようだ。みのりと永遠は顔を見合わせた。

「ドラマの撮影が終わったら、仕事は抑えてコンサートに向けての準備がメインになる。そのなかで時間を取ることはできるよ」

「約束です」

 忘れないでください、と念を押した凌が1度お店から出ていく。撮影スタッフはいるものの、お店のなかにみのりと永遠が残った。

「みのり、これ」

 永遠が握り拳をつき出してきた。

「?」

 みのりは差し出した手のひらを返し、受けとった。金具がぶつかる高い音がする。部屋の鍵だ。受け取った鍵はポケットに入れた。

「調子は?」

 みのりのとなりに来た永遠が、みのりを見おろし顔色をうかがう。

「おかげさまでわたしも大丈夫だよ。絶好調」

 笑顔で見上げ、好調をアピールする。

「うん、顔色もよさそうだ」

 じっと見ていた永遠も満足そうに頷いた。
 会話が止まると突然、となりにいる永遠の存在を意識し、一緒にいたいような逃げ出したいような不思議な気持ちにとらわれる。
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