アロマティック
 その日、アロマティックの撮影も無事に終わり、仕事から帰って部屋の電気をつけたみのりは、靴を脱いでキッチンにひとりぽつんと立ちつくした。
 まるで永遠が1泊したなんて思えないほど、彼がいた気配はなくなっている。
 永遠の香りもしない、殺風景なわたしの部屋。
 ひとりだということを実感しながら、寝室兼居間になっている部屋に入って足が止まる。

「……え?」

 わたしの部屋にいままでなかったもの。あるはずのないもの。それがあってびっくりしたのだ。
 テレビ……。
 しかも、部屋に不釣り合いなほど大きなテレビだ。
 一体どうして?
 唖然としたみのりは、メールが届いたのを知らせるスマホを取り出し、ぼんやりとしたまま開く。

『一番最新の一番いいやつだぞ。臨時ボーナスだと思って受け取ってほしい。
アロマを愛でるように、俺も愛でて。 永遠』

 文章を読んで我に返る。
 永遠なの? このテレビを用意したの。
 昨日、確かにテレビ買うって話したけど、一体どうやって? 早くない?
 芸能人はいろんなところに顔が利くのだろうか?
 俺の活躍を見てほしいっていってたけど、その行動の早さには驚くばかりだ。用意周到というのかな?


 テーブルには、サンドイッチ美味しかった、という永遠らしいきれいな文字で書かれた置き手紙と、ぴかぴかのテレビのリモコンと、EarthのコンサートDVDが置かれていた。
 この部屋に永遠がいたという確かな証が、そこには並んでいた。
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