アロマティック
 顔は見たことあるけど、名前を知らないひと。現場でいくつか会話を交わしたひと。何人ものひとと言葉を交わしていたら、少し気疲れしてしまった。
 こうしてみると、本当にたくさんのひとがスタッフとして、ドラマにかかわっていたんだな、とあらためて実感。
 お手洗いに行くと、アロマ指導担当の須藤さんとばったり出会った。

「みのりさん、おつかれさま」

「おつかれさまです」

 握手を求めれ、握手を交わす。

「あれだけたくさんの方がいると、人に酔ってしまうわね」

 苦笑いを浮かべる須藤さんは、少し疲れているようにみえた。みのりはどこか落ち着ける場所はないかと考え、椅子が準備されていることを思い出した。ふたりでフロアに戻り、隅にある椅子に須藤さんを連れていく。

「みのりさん、ありがとう」

「飲み物、お持ちします。なにがいいですか?」

「それじゃあ冷たい紅茶、お願いできるかしら?」

 ふたりぶんの飲み物を持ち、須藤さんに紅茶を渡してみのりもとなりに座り、問いかけた。

「お食事は食べました? なにかあればお持ちします」

「ええ、大丈夫よ。ありがとう」

 ふたりは並んで、目の前で盛り上がりを見せる皆をしばらく楽しげに見つめた。
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