アロマティック
「あなたがいてくれたおかげで助けられた部分が多々あったわ。どう? うちの学校に講師として来てみない?」

 膝の上に置いた手に、手を重ねられる。

「えっ……」

 有りがたい話しだけれど、いまはわたしがひとに教えるなんて考えられなかった。
 今後の予定も決まってない。

「あなたなら大歓迎なんだけれど」

「あ……お誘いは大変ありがたいです。ですが、まだ、わたし、今後のことは考えていなくて」

 永遠のもとにいられるの?
 皆の視線を集めて話している永遠が、とても眩しかった。
 彼にはアロマティックが終わっても、つぎはコンサートを成功させるという大仕事が待っている。
 わたしには、なにもない。
 わたしのアロマアドバイザーとしての仕事も、今日で終わる。
 今後のことを考えないとと思いながら、後へ後へと引っ張って、結局今日を迎えてしまった。
 いまさら焦っても、もう遅い。

「そう……残念ね。困ったことがあったらいつでも相談に乗るわ」

 須藤さんは残念そうに微笑んだ。

「須藤さん、おつかれさまです。ドラマの間、お世話になりました」

 マイクのバトンを他に渡してきたらしい、永遠が現れた。
< 288 / 318 >

この作品をシェア

pagetop