アロマティック
 耐えられないほどの重たい空気に、握りしめた手のひらが汗ばんでくる。
 ようやく沈黙を破ったのは、朝陽だった。

「永遠、知ってたのか?」

「………」

 その問いに誰も反応しないまま、靴音が近づいてくる。頭を下げたまま震えるまぶたを開けると、永遠の靴が目の前に見えた。

「どういうことだよ」

 怒りを抑えた、低い声。向き合うために顔をあげたみのりが見たのは、永遠の感情の読めない表情だった。
 他の皆は黙ったまま、成り行きを見守っている。誰もが険しい表情を浮かべていた。

「こんな大事なこと、なんで勝手に決めた?」

 肩に手がかかる。

「もともとドラマが終わるまでって引き受けた仕事なんだよ? ここでやめるのが道理だと思う」

「契約更新すればいいだろ?」

「だめだよ。ハーブティーを作るだけでお給料を貰うわけにはいかない」

「そんな簡単に辞めるのか。俺はお前にとってそれだけの存在だったってことか。仕事を辞めて次の就職先は決まったのか? それで俺らともさよならか?」

 永遠は、冷たい口調で畳み掛けるように問いかけ、掴んだ肩を大きく前後に振った。

「違う!」

 そんな簡単なことじゃない!
 慌てて首を振っても無駄だった。
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