アロマティック
 Earthの他のメンバーは心配して、ときおり連絡をくれるけど、永遠からはなにもなかった。
 ちょっとすねてるだけだよ、って慰められても、わたしにはそうは思えなかった。
 アロマ留学から帰ってきて、Earthのところへ戻れたとしても、永遠から冷たくされたら……意味がない。
 悪い事ばかりが思い浮かび、ネガティブな思考がみのりを蝕んでいく。
 頼ることに不慣れで、止められるのがいやだからと、相談しなかった自分の弱いところがいけなかったのだ。

 包み込むような穏やかな眼差し。見てるこっちまで笑顔になる、とびきりの笑顔。自分でわかっているくせに、わざとカッコつける姿。ときに情熱的な瞳で見つめてくれた永遠はいない。
 心に残っているのは、最後に見たナイフのように鋭い視線だった。
 あのときは、永遠が遠くにいってしまうような気がして、本当に怖かった。
 思い出して、あの場に戻った錯覚を覚え、寒気に胸が震えた。視界がぼやけて、涙が溢れそうになる。
 強く目を閉じたみのりの、自分を抱きしめる腕に力がこもった。

 もう1度、永遠の笑顔が見たい―――。

 叶わぬ夢でもそう願う。
 暗い思いを全て吹き飛ばす、永遠の笑顔が見たい。
 そのとき、テーブルに置いたままのビニールに包まれたEarthのDVDに目が止まった。結局、貰ったテレビも、DVDも見ていないまま。
 永遠の活躍を見て、自分がどう感じるのか知るのが怖かったから。
 日本を離れる最後の夜。
 永遠の笑顔が見ることができるなら。
 DVDを見てみよう――。
 誘われるようにテレビを付け、DVDをセットして、ひとりでは大きすぎるテレビの前に座り込む。
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