アロマティック
 画面のなかで微笑む永遠。歌詞を間違えてふざけた表情をする永遠。観覧席に手を振ってファンサービスをする永遠。激しいダンスが続いたあと、息を乱してちょっとだけ辛そうに顔をしかめる永遠。ペットボトルの水を思いっきり上に持ち上げて豪快に飲む永遠。汗だくになっても、その汗すらも自分を輝かせるアクセサリーにしていた。やること全てが自然なのに、全てが素敵だった。
 永遠の見せる姿に夢中になって、気づくと、息をするのも忘れるくらい、画面に映った永遠に、釘付けになっていた。テレビ画面に映る彼に手を伸ばしていた。テレビの向こうの永遠に触れていた。


 どうしよう。
 永遠が愛しい。

 胸が彼を呼んで切なく疼く。
 今さら気づいても遅いのに。

 わたしは、永遠を愛している――。


 心のどこかで怯えてた。
 好意は持っても、決して好きになってはいけない相手。
 永遠のようなひとに、ずっと好きでいてもらう自信がなかったから。
 また恋に傷つくのが怖かったから。
 もう失敗はしたくない。そんな思いが心のどこかにあって、気持ちにブレーキをかけていた。
 後で傷つくことがあっても、その傷が深くならないように、一定の距離を置いて接するようにしていた。
 永遠に恋することに臆病になっていた。


『……好きにしろ』

 最後にいわれた言葉が甦る。
 わたしは、なんてことをしてしまったんだろう。
 大切なひとに相談もしないで。
 本当にバカだった。
 鼻の奥がツンとして、嗚咽が漏れる。
 いまさら、後悔しても遅い。

 テレビ画面の永遠は、眩しいくらいの笑顔で微笑みかける。
 画面の向こうの永遠では、好きといっても伝わらないよ。
 思いをぶつけて抱きしめることなんて、できないよ。
 みのりは涙を流しながら、画面に置いた手を握りしめた。

 永遠。
 会いたい――!
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